【]】


ムーンストーン


 スカリーは天窓を見上げ、ホール内が荒らされていないことに気付くと、すぐさま時間を調べた。時刻は過去に飛ば
された直後だ。何故ホールが前と同じなのか不思議だったが、これだけは断言出来た。襲撃は最早無いだろう。彼ら
は全員時空の彼方で死んでしまった。この時代に戻ることは適わなかったのだ。スカリーは横たわるドゲットの顔を
眺め、気持ちを切り替えた。戻ってこれたのだ。この幸運を活用しなければ。
 ドゲットは相変わらず死んだように眠っている。病院で精密検査をしたかったが、状況を説明したくは無い。どうせ信
じてはもらえないし、包み隠さず話せばこちらが強制入院させられることは間違いない。幸いドゲットの怪我は命にか
かわるものではなく、只、何故目覚めないのか、目覚めた時正常な意識があるのか、それだけが彼女の不安材料だ
った。
 スカリーは眼を伏せた。こちらに戻る直前、ふっとドゲットの瞳に宿ったもの。それはほんの一瞬浮かんで、あっとい
う間に消えてしまった。見間違えかもしれない。だが、確かにあの時、あの瞬間、ドゲットは自分の元に還って来てい
た。スカリーは一縷の望みに賭けることに決めた。
 そう決断すれば、スカリーの行動は迅速だ。スカリーは携帯電話を取り出し援軍を呼ぶことにした。一人では、とて
も警備員をやり過ごして、ドゲットを車まで運ぶことは不可能だからだ。少し躊躇った後番号を押せば、数回のコール
でぶっきらぼうな応答が聞こえた。
「クーパー。」
「・・・ダナ・スカリーよ。」
ほんの一瞬の間の後、相変わらずの口調でクーパーは尋ねる。
「出動か?」
「いえ。でも、あなたの手が借りたいの。」
「俺の?ふーん。で、何をすりゃいいんだ。」
「今、詰め所を離れられる?」
「帰るところだ。」
「丁度良かったわ。」
スカリーは安堵すると、場所を告げタクシーで裏口まで来るように指示した。クーパーは何の質問も返さず、簡潔に答
えた。
「15分で行く。」
「裏口の鍵を開けるから、誰にも見られないようにして来て。」
「了解。」
電話を切ったスカリーは、ドゲットを監視カメラの死角へと移動させながら、クーパーの態度を訝っていた。こんな場合
一番頼りになるのはスキナーだが、彼の手を借りた場合、ことが大事になる可能性が出てくる。勿論立場を利用し
て、もみ消してもらえないことはないが、そうなった場合、彼へのリスクが大きくなるだろう。どの道公になれば、事故
の顛末を報告しないわけにはいかないのだ。それだけは、絶対に避けたかった。
 その点クーパーは適任と言えた。FBI関係者だから、万が一見つかっても不審に思われないし、彼自体他の局員と
あまり接触が無いから、外部に漏れる可能性は殆ど無い。しかし、助けを求める人間を思い浮かべた時、何故か真っ
先に浮かんだクーパーが、こうもあっさり承諾するとは、正直意外だった。しかも友人であるドゲットが頼んだわけでも
なければ、ドゲットの名前さえ出していないのだ。
 だがむら気のあるパイロットの言動を、幾ら考えても埒が明かないと、スカリーは直ぐに浮かんだ疑問を脇に押しや
った。とにかく今は、クーパーの気まぐれに便乗するのが最善だ。彼女は入り口付近の大きなガラスケースの裏にド
ゲットを隠すと、ホールを後にした。
 スカリーが何食わぬ顔でセキュリティルームに赴いた時、中では警備員のユニフォームを着た男が2人、TV画面に
歓声を上げていた。スカリーが入っていくと、椅子に座ってプロレス中継を観戦していた男は、罰の悪い顔で立ち上が
り慌ててTVを消した。もう1人も腰掛けていたコントロールパネルから身体を起こし、所在無げに俯いて帽子やサング
ラスの縁を触ったり、伸び放題の髭を引っ張ったりしている。スカリーが黙って部屋の中央まで進み出れば、年長者
らしい椅子に座っていた男が、訛りのきつい発音で言い訳がましい口をきいた。
「ちょっと眠気覚ましを・・。」
「効果はあったようね。」
スカリーの当てこすりに男達は顔を見合せ肩を竦める。ぐるりと部屋を見回したスカリーは、厳しい眼で2人を見た。
「監視カメラの電源が切れてるわ。」
「え?あ、おい。お前パネルに腰掛けた時、尻でスイッチに触ったな!・・・すいません。こいつまだ新入りなんで。で
もほんの数分切れていただけですから、平気ですって。ドゲットさんが確認した時には、異常はありませんでしたから
ね。そういや、ドゲットさんは?あなたを呼びに行ったはずじゃ・・。」
「ホールで逢ったわ。見回りを私から引き継いだのよ。」
「ああ、そうなんすか。」
スカリーはしょうがないという風に溜息を付くと、たるんだ警備員2人に提案した。
「2人とも、少し気分転換した方がいいようね。一時間ぐらい外の空気を吸って頭を冷やすといいわ。」
「え?じゃあ、上には報告しないんで?」
「次からは報告します。いいから、夜食でも食べてきなさい。一時間なら私達2人で平気でしょう。」
年配の警備員は明らかにほっとすると、急に愛想笑いを浮かべ、それじゃ、お言葉に甘えて、などと言い、椅子に掛
けてあったジャンパーをひったくると、もう1人を急かして、一時間したら戻ると告げ、足早に出て行った。
 2人の気配が消えると、スカリーは直ぐにコントロールパネルに向かった。スカリーはうっかり監視カメラの電源を切
ってしまった、怠慢な警備員に感謝していた。何処までが監視ビデオに録画されているか、確認せねばならず、収録
内容によっては画面を消さなければならない。スカリーは時計を見た。そろそろクーパーが来る頃だ。スカリーは非常
ベルのスイッチを切り、裏口の電子ロックを解除すると、素早く次の行動に移った。
 スカリーが裏口の扉を開けると、薄暗い路地の壁を背に、煙草をふかすシルエットが伺えた。不意に煙草の赤い火
が地面に落ち、細かい火花が散ると同時に足でもみ消される。
「遅かったな。」
「警備員を追っ払っていたのよ。」
暗がりから現れたクーパーは黙って頷き、招き入れたスカリーの隣に立った。こっちへ、と先導するスカリーの後を無
言で付いてきたクーパーだったが、ホールの隅に横たわるドゲットを見た途端、流石に顔色を変えた。
「どうしたんだ?こいつ。死んでんのか?」
スカリーは思わずクーパーの顔を睨み付けた。クーパーはスカリーの視線にちょっと肩を竦め、冗談だ、と呟きドゲット
の側にしゃがみ込む。
「怪我してんな。妙な格好だし。・・・こりゃ大したトラブルだ。で?」
「で?って。」
「だから、俺は何すりゃいいんだ?」
「え・・・ああ、とりあえず彼を車に運んで。」
「あいよ。車は?」
「案内するわ。」
スカリーは外の駐車場まで、ドゲットを抱き上げたクーパーを案内した。その間クーパーは一言も口を利かず、大人し
くスカリーに従っている。スカリーはこうも簡単にことが運び、ちょっと拍子抜けしていた。へりを操縦する時の、横柄な
クーパーしか知らないスカリーは、てっきりこちらの事情などお構い無しに、根掘り葉掘りことの経緯を聞かれるだろう
と予想していたのに、それらしいことは何一つ聞こうとしない。それどころか、意識の無いドゲットの扱い方も、何時も
の乱暴な口調からは、想像つかないほど慎重で、丁寧なのだ。
 駐車場に人のいないことを確認し、ピックアップにドゲットを乗せると、スカリーから鍵を受け取ったクーパーは、次な
る指示を仰いだ。そこでスカリーが、自分の家の住所を告げれば、車に乗り込みながら顔を顰めた。
「病院にゃ行かなくていいのか?」
「ええ。命にかかわる怪我ではないから、大丈夫よ。」
「でもよ、素人目にも様子が変だぜ。」
「・・・分かっているわ。」
消え入るような声でそう言ったスカリーの横顔に、クーパーは1人納得したらしかった。
「ふーん。・・ワケありって奴か。まあ、いいさ。医者の家なら、病院みてぇなもんだしな。あんたはどうすんだ?一緒に
乗ってくか?」
「いいえ。私はここに残ってすることがあるの。少なくとも一時間後に警備員が戻るまで、帰れないわ。」
「分かった。家に着いたその後は?」
「とりあえずベッドに寝かせて、安静にしておいて頂戴。怪我の処置は帰り次第私がします。様子がおかしくなったら
直ぐに連絡して。」
スカリーが自宅の鍵を渡しながらそう言えば、了解、と頷いてクーパーは走り去った。スカリーはピックアップが見え
なくなるまで見送り、踵を返した。一時間で証拠隠滅し、警備員を上手くやり過ごすのだ。安心するのは早い。

 自宅の玄関には、鍵がかかっていなかった。スカリーは悠然と居間のソファーで、コーヒーを啜りながら、航空雑誌
を読み耽るクーパーの前に憤慨して立った。
「鍵が開いてたわ。」
その声で初めてスカリーに気付いたクーパーは、雑誌から顔を上げた。
「あ?ああ・・。俺は玄関に鍵なんぞかけたこたねえんだ。うっかりしてたな。」
しれっとした顔で肩を竦めるクーパーをじろりと睨み、スカリーは直ぐに寝室に向かった。スカリーは枕元に膝を着く
と、ドゲットの顔を覗き込んだ。体温も呼吸も異常は見られず、只深く眠り続けている。
「別に変わったことは無かったぜ。」
寝室のドアに凭れクーパーが報告する。スカリーは頷くと、肩越しに振り返り尋ねた。
「あなたがこれを?」
これとは、ドゲットの着衣のことを指している。クーパーはキャップを脱いで頭を掻くと、にやりとした。
「寒そうだったんでな。ドゲットがピックアップに着替えを乗せてるのを、たまたま知ってたんだ。それによ、幾ら相棒で
も、素っ裸の野郎を美人のベッドに寝かすなんて美味しい話は、俺様的にちょっと頂けねえ。せめて下着ぐらい着せ
ねえと、肝心な時に眠り呆けてるような能無しにゃ、勿体無いぜ。それにあんたは良くても、後でこいつが知った
ら・・・・・・・ふん。それも面白えか。ちっ、まずったな。余計な気を利かしちまったぜ。」
後半は独り言のようにぶつくさ言い始めるクーパーを適当にあしらい、スカリーは手当てするからと、寝室から追い出
した。スカリーは呆れた顔で首を振った。やはりクーパーはクーパーだ。ドゲットを能無し呼ばわりした上に、頂けない
だの、美味し過ぎるだの。大体肝心な時とは何のことなのか。この状況の何をどう勘ぐれば、ああいう言葉が出てくる
のか相変わらずのクーパーに、スカリーは人選を誤ったかと、苦笑するしかなかった。
 スカリーがドゲットの手当てを終え居間に赴くと、来た時と同じ格好で雑誌を読んでいたクーパーは、ちらりとスカリ
ーの顔を見ておもむろに立ち上がった。
「じゃあ、俺は帰るぜ。」
「・・あ、このことは・・。」
「言わねえよ。」
クーパーは当たり前のように言って、雑誌を丸め尻のポケットに突っ込んだ。すたすたと玄関に向かうクーパーを見送
りながら、スカリーはふと浮かんだ疑問を口にしていた。
「何も聞かないの?」
「あんたらの仕事にゃ、興味ねえんだ。」
ドアノブに手をかけたまま振り返り、クーパーは醒めた口ぶりで答える。スカリーは少し躊躇ってから、切り出した。
「今夜はありがとう。助かったわ。」
「ぁあ?礼を言われる覚えはねえぞ。第一あんたの為にしたんじゃねえしな。俺はずっとドゲットに山ほど出来た借り
を返したくて仕方なかったんだ。これで半分ぐらいは帳消しになったぜ。だからよ、又何かあったら宜しく頼むわ。」 
乱暴な口調で不機嫌そうに告げるクーパーの眼差しは、それとは相反し思いやりが見え隠れする。スカリーはクーパ
ーの意外な一面に些か驚きを隠せないでいると、不意に居心地の悪い顔で咳払いをした。
「奴の車はどうする?まさかここに停めてはおけねえだろ。家まで届けんのか?」
「そうしてくれると助かるわ。」
「分かった。・・・・その、別に心配してるわけじゃねえけどよ。あいつの眼が覚めたら教えてくれねえか。」
「真っ先にあなたに連絡するわ。」
スカリーが真顔で約束すれば、心底嬉しそうな顔で頷き、必ずだぜ、と念押ししてクーパーは去って行った。
 スカリーは寝室に戻り、窓辺に佇んだ。振り返ればベッドに横たわるドゲットの顔を、白く月の光が照らしている。時
間的にはほんの数時間の出来事だったが、2人にとっては苛酷な一ヶ月が経過していた。スカリーは疲労に押しつ
ぶされそうだった。ドゲットの声が聞きたい。暖かな春の海に漂うように、彼の声に浸りたかった。
 スカリーはドゲットの側に椅子を持ってきて座ると、枕元に両肘を着き囁いた。
「早く戻ってきて。エージェント・ドゲット。」

 翌日、朝食を済ませたスカリーがシャワーを浴びていると、電話が鳴った。
「ダナ・スカリー。」
「スキナーだ。オフィスにいなかったから、電話したんだが。」
事務的なスキナーの声に、スカリーは慎重に答えた。
「今日は、午後から博物館に直行するよう言われているけど、何かあったの?」
「ああ、その件だが。博物館の警備は取りやめになった。」
「何故?」
「夕べ遅く匿名の垂れ込みがあって、窃盗団の隠れ家が割れたんだ。それで、所轄の窃盗犯罪課と内の担当の共
同捜査になった。今所轄の刑事が張り込んでるが、動きが見られないので、踏み込むのは時間の問題だろう。君達
にはその応援に行ってもらいたい。」
「分かったわ。場所は?」
まさか状況がこう展開するとは予想していなかった。スカリーのこの先の対処の仕方に苦慮しながらの返答は、自然
と重いものなる。すると長年の付き合いのスキナーは敏感にそれをキャッチした。躊躇いがちに尋ねる声は心配そう
だった。
「・・・・どうした?」
「え?」
「声に力が無い。具合でも悪いのか?」
「ちょっと体調が思わしくないの。でも平気よ。」
「それは良くないな。・・・君は2、3日休みを取れ。応援にはドゲット1人で充分だろう。」
「あ、それは無理ね。彼なら今朝早く親戚に不幸があったとかで、休暇を取ると連絡を貰っているわ。」
「何だ。そうなのか。」
「ええ。ごめんなさい。急だったから。」
「・・ふむ。まあ、そういうことなら仕様があるまい。担当には事情を話しておくから、君も休暇を取りなさい。」
「応援は大丈夫なの?」
「代わりなど幾らでも居る。」
「オフィスが無人になってしまうわ。」
「構うことは無い。君達がずっと働きづめなのは、皆も良く知ってるさ。それにこんな時しか休めないぞ。」
「そうね。じゃあ、今日から2、3日休むことにするわ。」
スカリーはスキナーの労いの言葉に、後ろめたさを感じながらも、電話を切った。我ながらこうもすらすらと、出任せが
出てくるのに、些か驚いている。スキナーを手玉に取るなど、随分図太くなったものだ。女が年を取るということは、こ
ういうことなんだわ。とスカリーは自嘲気味に微笑んだ。
 おかしなものだ。こちらに戻ってから、全てスカリー達に都合良くことが運ぶ。自分が仕事に行っている間、意識の
無いドゲットを1人にするのは、どうしたものだろうかと、シャワーを浴びながら思い悩んでいたのだ。それがこんな風
に向こうから、休暇を取って良し、とお達しがあるとは予想だにしていなかった。
 まるで過去一ヶ月の、不運の裏返しとばかりに訪れる幸運に感謝しつつも、一番望む出来事が未だ訪れない事実
に、スカリーは憂鬱な顔で肩を落とした。

 翌日の晩。玄関先に立つ男を、スカリーはほんの少し戸惑いながら招き入れた。クーパーは手にしたビールのパッ
クを、見舞いだ、と差し出し、妙な顔で受け取るスカリーなど構うことなく本題に入る。
「起きたか?」
「いいえ。」
「何だよ。何時まで待っても連絡ねえから変だと思って来てみりゃ、奴さんまだ寝こけてるのか。これで何日だ?」
「三日よ。」
「ちょっと顔見ていいか?」
断る礼儀ぐらいは、持ち合わせていたらしい。スカリーの承諾を得たクーパーが寝室を覗き込んでる間に、スカリーは
コーヒーを用意した。曲がりなりにも、心配して来てくれたのだ。そのくらいの待遇は正当だろう。寝室から戻ったクー
パーは、居間のソファーでスカリーからコーヒーを受け取り、一口啜って上目にスカリーの顔を窺った。
「あんたも大変だな。」
「どう言う意味?」
「そのまんまさ。相棒があれじゃさぞかし大変だろうと思ったんだ。」
「そうでも無いわ。・・・・彼に比べたら。」
僅かに眉を顰め、俯いたスカリーの顔をクーパーは不思議そうにじっと見た。視線を感じたスカリーが、何か?という
ような顔で見詰め返せば、唐突に話題を変えた。
「俺は随分前から、ドゲットに課を代われって言い続けてたんだ。何しろあんたと仕事をするようになってから、生傷絶
えねえからな。第一ドゲットみたいな奴が、あんなところで、燻っていちゃ勿体無いだろ。そう思って、親切心で忠告し
てやってるのによ、さっぱり言うことを聞きゃしねえ。でもまあこうなると、何となくドゲットの気持ちが分かったような気
がずるぜ。」
「何が言いたいのか良く分からないわ。」
「・・・あんた。・・・・・思ったより器用な女じゃねえんだな。」
きっぱりした口調でそう言って、クーパーは残りのコーヒーを飲み干した。スカリーは面食らってしまった。少なくとも侮
辱している訳ではないことは理解出来たが、肝心の話がさっぱり見えてこない。戸惑いの色を隠せないスカリーに、
突如邪気の無い顔でクーパーは笑いかけた。
「なあに。もうじき眼が覚めるさ。大体あいつは鈍いんだ。気にすんな。」
それだけ言って何やら1人で納得すると、邪魔したな、と短く挨拶しさっさと帰ってしまった。気にすんな?居間に残っ
たスカリーはただただ呆然と首を捻るばかりだった。

 その夜遅く、居間のソファーで眠っていたスカリーは、突然胸騒ぎがして眼が覚めた。悪い夢を見たわけでもなく、
おかしな気配がしたわけでもない。ひっそりと静まり返った部屋は、窓からの蒼白い月の光で寒々とした影を浮かび
上がらせている。眠る時と何の変化も無いのに、どきどきと動悸が収まらず、喉がからからだ。とりあえず水でも飲め
ば、落着くだろうとキッチンに赴き、冷たい水をコップ一杯飲み干したが、収まったのは動悸と喉の渇きだけで、相変
わらず胸騒ぎは収まらない。
 こうなれば足は自然とドゲットの元へ向かう。身動きせず眠ったままのドゲットは、月光を浴びまるで彫像のようだ。
窓辺に佇み月を背にスカリーは、子供の頃の歴史の教科書に似たようなものが無かっただろうかなどと、思い巡らせ
ていた。
 その時スカリーは、不意に胸騒ぎの原因を理解した。スカリーは不安だった。このままドゲットが、目覚めなかったら
と思うと、不安で不安で心が張り裂けそうに痛むのだ。彼はこのまま私を置き去りにして、何処かへ行ってしまうのだ
ろうか。いいえ。そんなことは有り得ない。ドゲットに限ってそんな。
 スカリーは枕元に近づくと床に膝を着いた。そうするとドゲットの顔が間近に見える。無精髭が伸び、やつれた顔だ
が、不思議と安らかな表情だった。それはまるで素晴らしい夢を見ているかのように、スカリーの眼には映った。スカ
リーは、このまま目覚めることが無くても、せめて彼に訪れる夢が、悪夢ではありませんようにと、願わずにはいられ
なかった。
 そう願った途端、愕然として一瞬息が止まった。このままドゲットが目覚めない。それは必死に避けていたが、全く
否定は出来ない事実だった。込み上げてくる熱いものを堪え、とてもドゲットの寝顔が直視出来ず顔を背ければ、背
けた視線の端に、きらりと光るものがある。何かと眼を凝らせば、サイドテーブルに置いた、イザボーのお守りだった。
 スカリーはその神秘的な光に、思わず手を伸ばし、両手で祈るように握り締めた。‘身に着けていれば必ず良い方
へ導く’そう言ったイザボーの言葉が蘇る。お守りに縋るなど、愚かしいと分かってはいたが、あの時一瞬輝きを増し
たように感じたのは、気のせいとは思えない。その直後、ドゲットに異変があったのだ。
 スカリーは深い溜息を付いた。もう限界だった。これ以上ここにドゲットを留めて置けはしない。明日にでも病院に移
送して、精密検査を受けさせるべきだ。そして次なる展開は、彼の昏睡の理由を尋ねられ、報告しても信じてもらえ
ず、欠員が出たX-ファイルは閉鎖され、ドゲットは目覚めるまで医者の研究材料になるだろう。
 スカリーは何処をどう間違っても、これ以上正確な予想は無いだろう事実に、胸が塞がれるような思いで一杯になっ
た。結局のところ、自分は何をしたのだろう。クーパーの言うように、彼はX-ファイルに移ってからというもの、何時も
傷を負っていた。それなのに、自分の何を指して傷無き玉などと言ったのだろう。むしろ疫病神とでも表現したほう
が、相応しいではないか。
 スカリーは救いようの無い自棄的気分に打ちのめされた。何一つ彼の心に応えず、最期に交わした口付けだけで、
彼の生還を望もうとは、虫がいいにも程がある。こんなことになるのだったら、何故もっと彼の気持ちに敏感にならな
かったか。何故、素直に感情を表さなかったのか。確かな言葉も、心からの態度も全て曖昧にし、何時も安全なとこ
ろで、のうのうとしていた自分が厭わしい。スカリーはベッドに突っ伏し、涙をシーツに染み込ませるに任せていた。
 そのまま、うとうとしてしまったのだろう。何か固いものが当たり、ふっと目覚めたスカリーは、ぼんやりと顔を上げ
た。視線を落とせば、握り締めていたはずのペンダントが、シーツの上にある。手から滑り顔に当たったのだと、覚醒
し切っていないまま、ぼうっとペンダントを眺めていれば、夜目にも美しいムーンストーンの滑らかな表面に、何か動く
ものが映った。
 どきん、として真正面を向けば、藍鼠色の瞳が、じっとスカリーを見詰めている。次の瞬間、その瞳の持ち主は音も
無く近づき、スカリーの頬を伝う、涙の最期の一滴をそっと舐め、満足したように微笑むと、まるで甘えるようにスカリ
ーの腕に頭を押し付け、眼を閉じてしまった。
 スカリーは固まったまま、暫く身動きできなかった。一体今何が起こったのだろう。だが徐々に身体が奮え、ついに
堪えきれなくなって、声も出せずに笑い始めた。
「全く。あなたって人は・・・。まるで狼と変わらないじゃない。本当に、もう・・。何なのよ、今のは・・」 
笑いが止まらず、途切れ途切れに話しかけるスカリーの眼には、涙が滲んでいた。しかしその涙に哀しみの色は無
い。スカリーは自分の腕に、ぴったりと額を擦り付けて眠るドゲットの顔に頬を寄せると、安堵の笑みを浮かべ、限り
なく優しい声で囁いた。
「お帰りなさい。エージェント・ドゲット。」

 ドゲットの前を狼が走っていた。その後を追いかけながら、ドゲットは胸苦しさに立ち止まりそうになる。俺はこの先
にあるものを知っている。悪夢だ。見たくは無い。なのに何故、走るのを止められないのだろう。まるで何かに急き立
てられるようにして走り続ける。
 ああ、夜明けだ。霧が晴れる。嫌だ。見たくない。夢と分かっていても俺には耐えられない。その時急に、足元に何
かが転がってきた。ドゲットはそれを確認したくなかった。だが、心とは裏腹に身体が動いてしまう。恐る恐る視線を
落とせば、赤い髪が眼に飛び込んできた。まさかと、手を伸ばせば、その手は両方とも血まみれだ。
 リアルに残る感触に、愕然と両手を眺める。するとその上に、顎から伝った赤い雫がぽとんと垂れた。ドゲットは膝
ががくがくと震え、とても身体を支えれらずその場に両膝を着けば、その拍子に赤い髪がばさりと揺れ、生気の無い
顔がドゲットを見上げる。エージェント・スカリー。そんな。嫌だ。これは何だ。何かの間違いだ。ああ、違う。そうだ。俺
が殺した。俺がこの手で。俺が。俺が。ドゲットは頭はパニックを起こし、意識を保ち続けるのが困難になっていた。
 ウォン。静寂を破った吼え声は、力強くドゲットの耳に響いた。するともう一度、狼の声が今度はもっとはっきりと聞こ
える。我に返り声を辿って顔を上げれば、直ぐ目の前に、白い胸をした狼が、首を傾げて座っている。どうかしたので
すか?とでも問いたそうに、生真面目な蒼い瞳で、狼はドゲットを見詰めていた。
「お前か。・・・」
ドゲットは縋るように、狼の顔に手を伸ばした。誰でもいい。この苦しみを受け止めて欲しかった。
「やってしまった。俺は、取り返しのつかないことを。俺は・・。」
取り返しのつかないこと?狼はまるでそう聞きたげに見える顔をして更に首を傾げる。ドゲットは狼の首に額を付ける
と、搾り出すような声で囁いた。
「殺してしまった。俺が・・・・この俺が・・」
「誰を?」
突然はっきりと聞こえた声に、思わずぎょっとして顔を上げれば、狼は馬鹿にしたような素振りで鼻を鳴らし、ちらりと
ドゲットの顔を見て、不意に身体を翻した。狼が口を利くはずは無い。いよいよ俺も終わりだなと、引き止めることもせ
ず、力なく項垂れたドゲットの耳に再び、狼の吼え声が聞こえた。
 物憂げに顔を上げたドゲットから、少し離れた位置で狼は座り、ドゲットを眺め再び吼える。濃い霧が辺りに立ち込
め、狼の姿もその中に紛れそうになる。眼を凝らしたドゲットは、狼の後ろからぼんやりと近づく黒い影にはっとなっ
た。それは彼の良く見知ったシルエットに似ている。 
 黒い影は、狼の側に屈むと、ドゲットの方を向いた。しかし霧が濃くて顔がはっきりと見えない。ドゲットはふらふらと
立ち上がり、鉛のように重い足を踏み出した。すると急に狼の側の人間の胸元が、青白く光り始め、それと同時に白
く視界を遮っていた霧が、見る見るうちに晴れてゆく。ドゲットは青い光の眩しさに眼を細めていたが、狼の頭に手を
置きすっと立ち上がったその姿を認めると、眼を見張った。では、この首は?慌てて足元に転がる首を見れば、見知
らぬ女だ。おまけに自分の身体の何処にも、血など付いていない。
 ドゲットは、信じられない思いで、もう一度彼女の顔を見詰めた。燃えるような赤い髪を風に遊ばせ、ドゲットを見詰
め返す青い瞳は海のように深い。微笑を浮かべた花びらのような唇を、ドゲットは覚えていた。あの時のドレスを纏
い、白い胸元では、見たことの無いペンダントが煌いている。夢見るようにスカリーは口を開いた。
「私はここにいるわ。早く戻ってきて。エージェント・ドゲット。」
ドゲットの心はその声に歓喜した。胸の奥底から溢れる喜びに、ただ呆然とスカリーの顔を見詰め続ける。生きてい
る。彼女は生きている。俺は殺していなかったのだ。スカリーは花が綻ぶように、顔中に笑みを広がらせ、ドゲットに
手を差し伸べた。ドゲットはその手を取ろうとするが、何故か近づくとその分スカリーは離れて行く。行ってしまう。見
失ってしまう。行かなければ。彼女の元に還るのだ。ドゲットは、再び立ち込めた霧の中を走り出した。スカリーの胸
のペンダントの蒼い光が、ドゲットを導いていた。

 数回瞬きして、眼を開けた時、ドゲットは部屋の中の眩しさに、眼を細めた。身体中が重く、このままベッドの中に、
沈み込んでしまいそうな気がする。僅かに動こうとすれば、あちこちに激痛が走り、思わず呻き声が出た。
「動いては駄目よ。エージェント・ドゲット。」
柔らかな声と共に、そっと胸に触れる指。ドゲットは声の主を探した。明るい部屋の中、ドゲットの枕元で、彼を覗き込
むスカリーの顔を見た途端、口をついた言葉は掠れて弱々しかったが、しっかりとスカリーには届いていた。
「僕のことでそんな顔をしては、いけない。」
スカリーは、何処か痛いところを必死で堪えているような顔をし、彼を見詰める瞳の色は、不安や謝罪、安堵と疲労
がごちゃ混ぜになって、何だか酷く哀しげに見えた。ところがそれを聞くや否や、スカリーは急にしゃんと背筋を伸ば
し、妙な顔でドゲットを一瞥し、つんとしてそっぽを向いた。
「怪我人の指図は受けないわ。」
突き放すような冷たい口ぶりに、思わず面食らったドゲットだが、横を向いたスカリーが、口元を押さえているのを見
て、ははあ、と頷きにやにやと笑い始め、ちらりとその顔を見たスカリーも、ついに堪えきれず笑い出した。ドゲットは
スカリーの笑顔を、感慨深げに眺め、部屋を見回し全てを悟った。するとスカリーがまるでドゲットの心を見透かすよう
に、囁いた。
「還って来たのよ。」
「そうだな。」
掠れた声のドゲットにスカリーは、水を差し出した。ドゲットは少し身体を起こすのも、非常に困難な様子で、スカリー
に手を貸してもらい、ゆっくりと水を飲み干すと、力尽きたようにどさりとベッドに身体を戻す。ドゲットは遠い眼をして、
天井を眺めた。
「どのくらい寝てたんだ?。」
「丸3日。」
「そんなに・・。」
「無事とは言えないけど、とにかく2人で戻れたわ。」
「怪我の程度は?」
「肋骨2本を骨折。打撲が少々。」
「少々。そりゃありがたい。」
上を向いたまま、眼だけちらりとスカリーに向け、何気なくそう言ったドゲットに、スカリーは訝しそうに眼を細めた。
「まさか、明日から仕事に復帰するとか、言わないでしょうね。」
「そう言いたいところだが、残念ながら無理だな。」
「きついの?」
「上陸部隊の完全防備で、フルマラソンした直後みたいだ。」
「分かり易いわね。」
ドゲットは眼を伏せて笑った。スカリーはそんな風に、簡単に無理だというからには、ドゲットがこうしているだけでも、
非常に消耗していると気付いていた。しかしそうなるのも当然だった。精神的にも、肉体的にも、彼はずっと限界以上
をキープしてきたのだ。しかしドゲットの力のある眼差しや、ゆとりのある笑顔は、彼の山場が去ったことを物語ってい
た。
「何か欲しいものはある?」
「いや。だが・・。」
「何?遠慮しなくていいのよ。」
ドゲットは、ちょっと躊躇ったが、とりあえずといった風情で口を開いた。
「出来たら、家に帰りたいんだが・・。」
「駄目よ。」
「即答だな。」
「当たり前です。今あなたを動かすことは出来ないわ。」
「しかし君のベッドを占領しちまって・・・。」
「私のベッドの心配なんか、してもらわなくて結構よ。大体あなたが家に帰るということは、私に毎日往診しろって言う
意味だわ。あなたの仕事の穴埋めと、往診の両方なんて、お断りよ。」
「毎日来る必要は無いさ。」
「それは医者が決めることです。あなたは口を出さない。」
きっぱりと断定し、スカリーは怒ったように立ち上がった。こうなったスカリーに、何を言っても無駄なのは、ドゲットは
身をもって体験済みだ。やはりと言う顔で、ベッドに沈み込んだドゲットを、スカリーは上から見下ろした。
「分かったら大人しく寝ていなさい。私は仕事に行きます。」
仕様が無いという風に頷くドゲットが、それでもまだスカリーには信用できなかった。こういうしおらしい態度に何度騙
されたことか。スカリーはふと思いついた懸念に、探るような顔で念押しした。
「私が留守の間に、誰かを頼んで、勝手に家に帰るようなことはしないでしょうね。」
まさかと首を振るドゲットの眼が一瞬泳いだのを、スカリーは見逃さなかった。やっぱり。油断も隙も無いわ。スカリー
は直ぐにドゲットの思惑を封じ込めにかかった。
「そうよね。帰ったりしたら、今度のことが発覚する可能性が高くなるわ。何しろあなたは怪我人なんですもの。誰か
に怪我の原因を尋ねられたら、大変だわ。」
「喧嘩に巻き込まれたと言う手もあるが。」
「ああ!そうね!その手があったわ。じゃあ、クーパーにもそう言っておかないと。」
「ちょ、ちょっと待て。何でここにクーパーが出てくるんだ?」
ドゲットは思いもしない人物の名に、うろたえた声をだした。スカリーはにっこりすると、それには答えず、話を先に進
めようとする。
「さあ。何でかしら。・・・でもそうなると、やはりクーパーには全部話しておいた方がいいわね。口裏を合わせるには、
きちんと状況を把握してもらった方がいいでしょう。じゃあ、ここは一つ、素直で陽気な狼の話からするのが、一番手っ
取り早いのかしら。」
ドゲットはじろりとスカリーを睨み、忌々しそうに息を吐き出し、口の中で何やら悪態をつく。
「何?聞こえないわ。それでどうなの?私のいうことを聞いて、治るまで大人しくしていられるの?」
不承不承頷いたドゲットのげんなりした表情に、スカリーは高飛車な態度で、命令する。
「必要なものは全部サイドテーブルにあるから、ここで安静にしているのよ。」
「了解。」
ドゲットは観念したのか殊勝な顔で答え、サイドテーブルに確認の視線を移したが、おや、という顔で眉根に皺を寄せ
た。その様子にスカリーは、首を傾げた。
「何?」
「いや。・・・・そのペンダントは君の?」
スカリーは、ああ、と頷いてサイドテーブルの隅に置いたペンダントを手に取り、そっとその表面を撫でた。
「これはイザボーに借りた彼女のお守りなの。返しそびれて持ってきてしまったのよ。これが、何か?」
「・・・・夢に・・。」
スカリーが怪訝そうな顔のドゲットに、ペンダントを手渡せば、目の前に翳し、じっと見入っている。
「どうかした?」
「このペンダントをしている、君の、夢を・・・」
不意にドゲットは声を詰まらせると、ペンダントを握り顔を背けた。突如ドゲットを襲った感情の波は、弱った彼の心を
思う様翻弄した。悪夢のような苛酷な体験と、辛くも踏み止まっていた正気と狂気の瀬戸際の日々。スカリーの無事
な姿や戻って来れたという安堵感を、その時初めてドゲットは実感し、心の底から湧きあがる、形容しがたい感動に
身動きが取れなかった。
 スカリーは椅子に掛けると、背けたドゲットの横顔を、見詰め胸が一杯になってしまった。ドゲットの心の中が、スカ
リーには手に取るように、理解出来た。スカリーは胸の上でペンダントを握り締めたドゲットの手に、そっと手を重ね
た。するとドゲットは顔を背けたまま、もう一方の手で力強くスカリーの手を握り締める。 
「還って来たのよ。エージェント・ドゲット。」
そっと語りかけたスカリーを見ようともしないで、ドゲットは頷いた。
「君が無事で・・・・・、僕は、君を・・・」
途切れた言葉の先を、スカリーは知っていた。言葉にすることでさえ、痛みを伴う記憶を、この先ドゲットはずっと抱え
て生きていかねばならない。こうしてスカリーの無事を確認しても、例え違っていたとはいえ、一瞬でもそう信じ、拭い
去れない嫌悪感を心の片隅に住まわせることは、幾ら並外れた精神力の持ち主でも、思い出すたびにやりきれない
思いで彼を苛み、打ちのめすだろう。
 スカリーはドゲットの手に、更に自分の手を重ね、胸に染み入るような静かな声で囁いた。
「あなたは私との約束を守ったわ。それが全てよ。エージェント・ドゲット。」
顔を背けたドゲットが、眼を伏せたまま微笑んだ。ドゲットは小さく、そうだな、と呟いたあと、感情の篭った声で柔らか
く囁いた。
「君の手は暖かいな。エージェント・スカリー。」
「ええ、あなたも。・・・全部終ったのよ。」
それは全てが元に戻ったと、ドゲットがどれほどその感触を切望していたかを、一瞬でスカリーに悟らせた。スカリー
は胸が一杯でそう言葉をかけるのがやっとで、只黙ってドゲットの横顔を見詰め続けた。すると不意にスカリーの方を
向いたドゲットが、何時ものゆったりとした口調で、こう言った。
「僕は平気だから、君は仕事に行きなさい。」
愛しむように微笑みかけるドゲットに、スカリーも同じ笑みで答え、名残惜しそうに立ち上がる。少し疲れた。そう言っ
て眼を閉じ眠りに落ちるドゲットを、戸口から振り返ったスカリーは暖かな眼差しで見守りながら、心の底から溢れる
充足感に浸り、暫し足を止め、待ち望んでいた声の余韻に身を委ねていた。









【エピローグ】
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